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美濃部憲法学を読む

帝国憲法から日本国憲法まで、「日本の憲法」について考えるブログです。

『憲法講話』1-2 政体の種類 6.法律上の権力と政治上の権力

『憲法講話』原文

 法律上の政体と政治上の実力

 政体の説明を終るに臨んで特に注意して置きたいのは、法律上の意義に於ての政体と政治上の実際の勢力の所在とは必ずしも常に相一致するものではないといふことであります。

 法律上に於ける君主政体と民主政体との区別は、専ら法律上の名分に於て君主が最高の権力者たる地位に在るか又は国民が最高の権力者たる地位に在るかの区別であつて、此の区別は必ずしも、政治上の実際の勢力が専ら君主に在るか又は主として国民に在るかの区別と相一致するものではない。

 政治上の実際の勢力は其の時々の状況に依つて絶えず変動するもので、例へばナポレオンのやうな豪傑が起り、ビスマルクのやうな大政治家が出て来るとすれば、政治上の勢力が専ら其の人に帰するやうになることもある。法律上は国務大臣が専ら君主の大権を輔弼し又行政各部の長官となつて居るものであつても、実際は或は元老なるものが大臣より却て一層強い勢力を有つて居ることもあるし、各省の政務も多くは属僚の手に依つて決せられ、大臣は唯之に盲判を押すに過ぎないこともある。

 其の実際の勢力の何人に在るかは専ら政治上の事実の問題であつて、法律上の問題ではないのであります。政体の区別は専ら法律上に何人が国家の意思を決定するの権があるかに依つて決すべきもので、実際の政治上の勢力如何に依つて決すべきものではない。英吉利の如き法律上は明に君主政体でありますが、実際の勢力の上から言へば、却て最も完全なる民主国と言はれて居ることは前にも述べた通りで、其の他の諸国に於ても其の政体を論ずるには常に法律上の名分のみを其の標準としなければならぬのであります。

 

 

 ※美濃部達吉憲法講話』(大正7年)p46-47

  古字及び旧字体を新字体に改め、改行を加えた外は原文のまま。

  本文中の傍点は、「﹅」を太字、「○」を青字、「●」を赤字で表した。