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美濃部憲法学を読む

帝国憲法から日本国憲法まで、「日本の憲法」について考えるブログです。

『憲法講話』1-2 政体の種類 5.共和政体の種類

『憲法講話』原文

 共和政体の種類

 君主政体に対するものは共和政体であります。共和政体とは簡単に言へば国家の最高の意思即ち国家の活動の最高の源が一人の意思に出でずして多数人の合議に出づるものを言ふのであります。

 共和政体にも種々の種類があるが、其の重なるものには、寡人政治貴族政治及民主政治を挙げる事が出来ます。寡人政治とは或る限られたる少数の人が国家の最高機関たるもので、貴族政治とは国民中の或る特別な階級の者が最高機関たるものであります。此の二種の政体は近代に於ては全く其の跡を絶つて、共和政体の近代に於て行はれて居るものは総て民主政体であります。

 

 民主政体

 民主政体は全国民が国家の最高機関たるものであります。勿論全国民が最高機関であると言つても、必ずしも全国民が悉く相集つて相共に国事を議するといふのではない。全国民が、小児、婦女、犯罪者、前科者、瘋癲、自痴等の無資格者を除いては、悉く一箇所に集まつて自ら国政を議決するといふことは、現今でも瑞西の小さな「カントン」では行はれて居る所でありますが、是は唯極めて小さな国にのみ行はれ得べき所で、稍大きな国家に於ては到底行はれ得べき所ではない。

 今日行はれて居る民主政体は、概ね唯思想の上に於てのみ全国民が最高の機関であると看做すに止まつて、実際は国民の中から選ばれた国民の代表者が国民の名に於て其の権力を行つて居るのであります。国民が自ら直接に国政の議に与かる政体は之を直接民主政と謂ひ、国民の代表者たる機関が国民の名に於て国政を行つて居る政体は之を代議的民主政と謂つて居ります。直接民主政の国であつても国家の政治は細大悉く国民の総会議に於て之を決するといふのではなく、国民の総会議に於て議する所は唯国の大事に止まつて、日常一般の政務は之を国民の代表者たる機関に委任して居ることは勿論であります。

 国民の代表者たる機関は通常二つあつて、一は国会であり、一は大統領である。何れも直接又は間接に国民の選挙に依つて其の職に就き、国民の名に於て其の権力を行ふのであります。

 今日の民主政体は概ね皆代議的民主政に属するもので、国会及大統領が国民に代つて国家の権力を掌握して居るのでありますが、最近に至つては再び之に稍直接民主政の要素が加つて来るの傾向が見はれて来た。固より国民が悉く一箇所に集まつて国事を議するといふのではないが、憲法の改正とか特に重要な法律の議決とかいふやうな大問題を決する場合には、国会の議決のみを以ては確定することを得ないものとして、国会の議決の後更に全国民の投票に附し、全国民が一定の期日に、恰も国会議員の総選挙を行ふと同じ様な方法を以て、其可否に付ての投票を行つて、之に依つて可否を決定しようとするのであります。是が所謂レフェレンダムの制度で、其の最も広く行はれて居るのは瑞西の諸州であります、米合衆国の諸州に於ても此の制度を行つて居るものが少なくない。

 最近には英国に於ても亦レフェレンダムの制度を起さうといふ議が統一党の政治家から主張せられ、一時政界の大問題となつたことは御承知の通りであります。是は頗る注目すべき事柄で、今日までレフェレンダムの制度の行はれて居るのは、唯民主国ばかりであつたが、今は英国の如き君主国に於ても主張せらるゝに至つたので、君主国に於て此の制度の主張せられたのは英国が実に其の最初と言ふべきであります。一体英国は法律上は君主政体であるけれども、実際は殆ど完全なる民主国と言つても可い位で、是れ迄も国民の輿論が常に最終の判断を与へる最高の勢力たるの有様であつたのであるから、此の国に於てレフェレンタムを行はんとするの議が起つたことは必ずしも怪しむに足らぬのであります。

 併ながら仮りに英国に於て此の制度が実行せらるゝことになつたとしても、若し其の投票の結果に依つて直に確定するものとせず、国民の投票にかけた後更に国王の裁可を経て後確定するものとするならば、法律上は矢張君主政体たることを失はぬのであります。

 

 

 ※美濃部達吉憲法講話』(大正7年)p42-46

  古字及び旧字体を新字体に改め、改行を加えた外は原文のまま。

  本文中の傍点は、「﹅」を太字、「○」を青字、「●」を赤字で表した。