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美濃部憲法学を読む

帝国憲法から日本国憲法まで、「日本の憲法」について考えるブログです。

『憲法講話』1-2 政体の種類 3.君主政体の種類

『憲法講話』原文

 君主政体の二種類

 君主政体の各種の体様は其の種類甚だ多く、色々の点から之を区別することが出来ますが、君主の法律上の地位から区別するのが最も大切で、此の点から区別すると、君主政体は之を二大種類に区別することが出来る、一は専制君主政体又は独裁君主政体で、一は制限君主政体であります。

 専制君主政体といふのは、君主が国家権力の全部を握つて、総ての国家機関は皆君主の委任を受け、君主の命の下に国家の事務を行つて居るのを謂ふのであります、前に最も純粋な君主政体といつたのは即ち此の種類を謂ふのであります。

 制限君主政体とは、之に反して、君主の外に君主の命令の下に立たない独立の機関があつて、其の独立の機関に依つて君主の権力が法律上に制限せられて居るものを謂ふのであります。

 

 専制君主政体の種類

 専制君主政体にも制限君主政体にもそれぞれ種々の体様があります。専制君主政体にも或は君主が神の代表者と看做され、神意に基いて総ての権力を行ふものとされて居るものもある、斯かる政体を普通に神主政体と言つて居ります。

 或は国民が凡て一家族の如くに看做され、君主は恰も其の家長の如き地位に在つて之を総括し支配して居るものもある、斯かる政体は之を族長的君主政体といふことが出来ます。

 或は領土及臣民は之を君主の世襲財産の如く見做し、領土は君主の私有地であり臣民は君主の私の臣僕であるといふやうに看做されて居るものもある、斯かる政体は普通に家産的君主政体と言つて居ります。

 

 制限君主政体の種類

 制限君主政体にも亦種々の種類がある。殊に中世の封建政治は制限君主政体の著しい例で、封建時代に於ては君主が国権の全部を自ら掌握して居つたのではなく、日本に於ては天皇の下に将軍が有り、将軍の下に更に多くの大名が有つて、天皇の権力は甚だ制限せられたものであつた。

 西洋の諸国では別に将軍といふものはなく、君主が自ら日本でいふ将軍の地位に在つたのであるけれども、尚君主の下に多くの大名が有つて、大名は或る範囲に於ては君主の命令の下に立たず、君主の権力は之が為めに甚だ制限せられて居つたのであります。

 併ながら封建時代は既に歴史上の過去の事で、今日は最早其の跡を止めないのでありますが、近世に於て制限君主政体の最も著しいのは、言ふ迄もなく所謂立憲君主政体であります。

 

 立憲君主政体の特色

 立憲君主政体は今日では世界の重なる君主国に普ねく行はれて居る制度であります。其の最も著しい特色は、君主の外に国民の代表者として国民から選挙した国会があつて、国会が立法権及び其の他重要なる国家の行為に参与するの権を有つて居ることに在る。即ち一口に言へば国民の代表者たる国会の置かれてあることが立憲君主政体の最も主なる特色であります

 国会は君主の召集に依つてのみ開会するものではあるけれども、国会が法律を議決し其の他の総ての議決を為すには、何れも君主の命令の下に立たず、自己の独立の意見に依つて議決するので、即ち君主からは独立した地位を有つて居るのである。国会の性質及び権限に付いては尚後に説明するのでありますが、要するに国会の最も著しい性質は国民の代表者たることゝ、立法に参与し行政を監督するの権を有することゝに在るのであります。

 国会の設置の目的は国民をして国政に参与せしめんとするのに在るので、国民の全体を一堂に集めて国政を議せしむることの代りに、国民中より其の総代として国会の議員を選ばしめて、之をして国政に参与せしむるのであつて、是が立憲君主政体の最も著しい特色であるのであります。

 君主が法律を作るに当つて或る特別の集会を設けて、其の集会の決議が無ければ法律を作ることが出来ぬやうにして居るのは、必ずしも立憲政体に於てのみ存する所ではない。我が国に於ても、憲法制定前に元老院が設けられて、法律は凡て元老院の議決を経て之を定むることにして居つたのでありますが、是は決して立憲政体ではない。元老院は唯官吏の集りであつて、国民の代表者たる資格を有つて居るものではないから、是が法律を議決するの権を有つて居つても、之を以て立憲政体と言ふことは出来ぬのは勿論であります。

 欧洲の諸国殊に仏英独等の諸国では、中世に於ても、君主の外に貴族、僧侶、市民などの特別の階級の代表者から成り立つて居る会議があつて、新に租税を賦課し又は法律を議決するには、此の会議の議決を要することとなつて居つたのでありますが、是も立憲政体といふことは出来ぬ、何となれば是も全国民の代表者たるものではなくして、唯国民の中の或る特別の階級の代表者たるに過ぎなかつたからであります。

 立憲政体たるには、必ず国民の代表者たる国会が無ければならぬ。即ち全国民が国会を通じて国政に参与するものでなければならぬのであります。今は余り行はれぬ語でありますが、古くは、立憲政体の事を称して君民同治の政治と言つて居りましたが、是は能く簡単に立憲政体の特色を言ひ表はしたもので、立憲政体に於ては、吾々国民は、単に被治者たるのみならず、同時に又自ら治者の一員となつて、国権に服従すると共に又一面に於て自ら国政に参与するのであります。

 自ら国政に参与すると言つても、固より総ての国民が自ら直接に其の相談に与るのではないが、国会が国民の代表者として国政に参与するのであるから、国民は間接に自ら国政に参与することに成るのであつて、即ち君主と国民と共同して国家の権力を行つて行くといふのが立憲君主政体の本質であります

 

 

 ※美濃部達吉憲法講話』(大正7年)p35-40

  古字及び旧字体を新字体に改め、改行を加えた外は原文のまま。

  本文中の傍点は、「﹅」を太字、「○」を青字、「●」を赤字で表した。