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美濃部憲法学を読む

帝国憲法から日本国憲法まで、「日本の憲法」について考えるブログです。

『憲法講話』1-1 国家の性質 6.国家は法人であり、統治権の主体である

『憲法講話』原文

 国家は法人なり

 法律上から見て、国家は一の法人であると申します。法人とは法律上の人といふことで、即ち法律上人と同一視せらるゝことを言ひ表はすのであります。前にも述べた通り、凡て団体は其れ自身に生存目的を有し活動力を有つて居るもので、此等の点に於て団体は恰も人間と同様の性質を有つて居るものであるから、法律上の見地に於ても団体其れ自身が恰も一個の人であるが如くに見做し、之を法人といふのであります。

 尤も総ての団体が皆当然に法人と看做さるゝといふのではなく、団体の内でも、其の結合が特に強固で、多少継続的の性質を有し、其の他人に及ぼす利害関係の広いものだけが、特に法人として保護せらるゝのであります。国家は総ての団体の中でも最も永続的な、其の関係の及ぼす所の最も広いものでありますから、勿論一の法人たる地位を有つて居るのであります。

 法律上に於て人といふのは、権利能力の主体といふことであります。即ち法律上に人の人たる所以、人が他の総ての者と区別せらるゝ所以は、其の権利能力を有することに在るのであります。権利能力といふのは、畢竟、自己の生存目的の為めにする活動力、又は自己の利益を達するが為めの意思力といふことで、即ち法律上に於て権利能力の主体といふのは、利益の主体たり、意思力の主体たることが、法律上に認められて居る者を謂ふのであります。団体が法人であるといふのは、即ち団体が自己の利益を有し、自己の意思力を有することを法律上に認められて居ることを謂ふので、約言すれば、団体が法律上の権利能力を有すといふことに帰するのであります。

 国家が一の法人であるといふのも亦之と同様に国家が権利能力を有することを意味するので国家は恰も其れ自身に一の人であるかの如くに権利能力を有し其の権利能力に基いて種々の権利を享有するのであります

 

 国家の権利の二大種類

 国家の享有する権利は、其の種類にいろいろありますが、大別すると二種類に分けることが出来ます。

 第一種は、国家のみならず、他の総ての法人でも又は一個人でも享有することの出来るもので、是は主として財産権であります。総ての法人又は一個人は、何れも財産を所有し之を処分することが出来ると同様に、国家も亦財産権の主体たることが出来ることは勿論であります。

 第二種は、国家に特有なる権利でありまして、即ち国内の総ての人民に対して命令強制を為し得るの権利であります。是は国家のみが享有して居る権利で、他の法人又は一個人は特に国家から附与せられた場合の外は、之を享有することの出来ぬものであります。地方自治団体であるとか、自治殖民地とかいふものは、何れも国家から此の権利を附与せられて居るものであります。此の国家の権利を称して、統治権といふのであります。

 要するに、国家の権利は総ての人の一般に享有することの出来る財産権と国家にのみ特有なる統治権此の二種類に分けることが出来るのでありまして前者は之を国家の私権と謂ひ後者は之を国家の公権と謂ふことが出来ます

 

 国家の統治権

 国家の統治権は、国家の最も大切なる権利で、之に依つて国家が国家としての生存を全うすることが出来るのであります。

 統治権とは、一口に申せば命令強制の権利といふことが出来ますが、今少し精密に申すならば、国家は其の統治権に基いて、第一には、一定の人民を自国の臣民と定め、其の臣民たる者を独占的に支配し、之に対して命令を為し其の命令を強制し、其の権利関係を定むることが出来ます、此の権利は通常之を対人高権と申します。約言すれば臣民たるべき資格要件を定め及び其の臣民を支配するの権利であります。

 第二には、一定の土地を自国の領土と定め、其の領土内に在る者は、自国の臣民であると、又は外国人であるとを問はず、凡て之を独占的に支配することが出来ます。此の権利を称して、領土高権と謂ひ、又は単に領土権と申します。約言すれば、自国の領土を定め及び領土内に於ける総ての者を支配するの権利であります。凡て新領土を取得するのは、領土権の拡張であります。

 最後に第三には、国家は其の統治権に基いて、自由に自国の政体を定め其の組織を定むることが出来ます。此の権利を称して組織高権と謂ふことが出来ます。対人高権、領土高権及び組織高権、此の三つを合せたものが、即ち国家の統治権であります。

 

 

 ※美濃部達吉憲法講話』(大正7年)p19-23

  古字及び旧字体を新字体に改め、改行を加えた外は原文のまま。

  本文中の傍点は、「﹅」を太字、「○」を青字、「●」を赤字で表した。