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美濃部憲法学を読む

帝国憲法から日本国憲法まで、「日本の憲法」について考えるブログです。

『憲法講話』1-1 国家の性質 4.国家の特色①

『憲法講話』原文

 国家が一の団体であることは右述ぶる通であるが、是だけでは未だ国家の性質を明にしたものと言ふことは出来ぬ。国家の性質を明にするには、尚国家が他の総ての団体と区別せらるべき特色を明にせねばならぬ。国家が他の団体と区別せらるべき特色は三の点を挙ぐることが出来ます

  第一 国家は地域団体であること、

  第二 国家は統治団体であること、

  第三 国家は最高の権力を有する団体であること、

是であります。

 

 国家は地域団体なり

 国家が地域団体であることは国家の第一の特色であります。地域団体といふのは一定の土地を基礎として成立して居る団体といふことである。国家は必ず一定の土地を占領して之を自分の領土として居り国家を組織して居る人々即ち国民は此の領土の上に定住して国家といふ団体を成して居るのである。斯う云ふ一定の領土がなければ、如何に多数の人が結合して居つても国家の性質を有つて居るものといふことは出来ぬ。

 人間に譬へて言ふならば、丁度体軀のやうなもので、恰も人間は体軀が必要である通りに国家にも亦領土が必要なのであります。

 

 国家は統治団体なり

 国家の第二の特色は国家が統治団体たることに在る。統治団体とは、単に特定の事業のみを目的とする団体ではなく、広く人類の生活を幸福ならしめんことを目的とし而して此目的の為に其の団体に属する人民を支配する力を有つて居る団体を謂ふのであります。

 統治といふことは、元来支配といふ意味であつて、苟も国家といふ以上は、必ず人民を支配するだけの力を有つて居なければならぬ。若し此の支配力を備へて居ないものであれば、それは無政府の状態であつて、最早完全なる国家としての存在を失つたものと言はねばならぬ。而して其の支配権は専ら一般人民の福利の為に行はるべきもので、人民の幸福を全うすることが国家の目的の存する所である。此点に於て国家は単純なる事業団体と区別せらるゝのであります。

 国家が地域団体であり又統治団体であることは国家の著しい特色であるけれども、是は必ずしも国家ばかりではなく、府、県、市町村といふやうな、所謂地方団体も亦地域団体の一種で、等しく一定の地域を占め又人民を支配する力を有つて居るものである。国家と此等の地方団体との区別を明にするには、尚国家の第三の特色を知らねばならぬ。

 

 国家は最高権力を有する団体なり

 国家の第三の特色は国家が最高の権力を有する団体であることに在る。是が国家の最も著しい特色で国家をして他の総ての団体と区別せしむる所以であります。前に述べた通り、総ての団体は皆活動力即ち意思力を有つて居るものであるが、国家以外の団体は皆自分の勝手に如何なる活動をも為し得べき力を有つて居るものではなく、常に他の権力の下に服し殊に国家の権力に依つて制限せられて居るものであります。

 如何なる団体と雖も国家の命令に服せず独立自由の行動を為し得べき力を有するものは無い。独り国家のみは如何なる権力の下にも服することなく、自分で自ら制限を加ふる外には何者の命令をも受けず何者に依つても干渉せらるゝことは無いのであります

 固より国家と雖も全く無制限に何んな事でも勝手に為すことが出来るといふのではなく、国家は一面には国内法と、一面には国際法とに依つて其の行動を制限せられて居るものであります。国家と雖も法律に違うた行動を為すことは出来ないもので、法律に定まつて居る以外に勝手に人民を刑罰に処したり、人民から租税を取り立てたりするといふやうなことは、勿論為すことを得ないのであります。国家は又国際法にも違反することの出来ないもので、其の外国に対する行動は常に国際法の範囲に於てのみ為すことを得べきものである。

 国家には此の如き制限が有りますけれども、乍併、此等の制限は何れも国家以外の他の権力から加へられた制限ではなく、国家自身が自ら加へた制限であります。即ち国内法は国家が自分で制定し改廃することの出来るものであるから、国家が国内法の規定に従ふのは、他から制限を加へらるゝのではなく、自ら自分の加へた制限に服するものであることは言ふ迄も無い。

 国際法は国家が自分だけで勝手に制定し改廃し得るものではないが、国際法も矢張り国際団体内の総ての国家が一致承認して始めて成立するもので、亦国家の意思に反して外から加へられた制限といふものではない、国家が自ら之に同意し自ら之を承認して、始めて国際法が成立するのであつて、国家が国際法に従ふのは矢張り国家が自ら其の同意し承認した所に従ふのに外ならぬのであります。

 国家は此の如く自分の意思に基いて自ら制限を加へる外には、他の者の意思に依つて制限を受くることの無いもので、此の如き性質を言ひ表はす為に、国家は最高の権力を有すといふのであります。権力といふのは活動力、意思力といふのと同じ意味で、即ち最高の権力を有すといふのは最高の意思力を有すといふことに外ならぬのであります。

 最高の意思力といふのは自己の意思に反して他の者に依つて自己の活動を制限せられないことを言ひ表はす語で語を換へて言へば国家の意思力は国家が自ら制限する外には他の者の意思に依つて制限せられ拘束せらるゝことの無いことを謂ふのであります

 

 

 ※美濃部達吉憲法講話』(大正7年)p11-16

  古字及び旧字体を新字体に改め、改行を加えた外は原文のまま。

  本文中の傍点は、「﹅」を太字、「○」を青字、「●」を赤字で表した。